「秘密」
                         






ずっと黙っていたことがあるの
ずっと内緒にしていた秘密

今まで言わなかったけれど
私はあなたに会っていたの

あなたを知っていた
あなたに会う前から


そう


ずっとずっと昔の
いつかわからないほど前に

私はあなたに会っていたの






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あなたは海を見ていた
月も星もない、夜の海を

波は静かに寄せて
風は微かに

あなたはその穏やかな闇の中で
ただ 立っていた

若くほっそりとした木のように
年月の重さにも疲れることのない老王のように



私にはあなたの顔も見えない
言葉を交わすこともない

でも

私はあなたが誰だか知っていた
私の最も近しいひと、私の一番慣れ親しんだ人だと

触れなくても知っていた
あなたの生きている体のあたたかさを

聞かなくても知っていた
あなたの声がやわらかく響くことを

試さずともわかっていた
両腕を伸ばすと あなたを抱いて指先をやっと組めること
私の頭が あなたの胸に当たることを




わたしは砂を踏んであなたに近づき
手を伸ばして あなたの背を抱こうとする

いつもしていることのように

あなたは首を回して私を見下ろし
黙って私の肩を引き寄せる

いつもそうしているかのように

私の指は あなたの体を巻いてやっと互いに触れるくらい
私の髪は あなたの肩の下に流れる


そう、知っていた通り
わかっていた

このあたたかさも 腕も
私を見た時に 微笑んだ目も




月もない闇の海辺で

風の吹き渡る高原の草の上で

暗い森の湿った土の香りの中で

痛いほど輝く太陽を浴びる城壁の上で

大きな流れが赤く染まる夕暮れの川辺で



繰り返しくりかえし
私は見ていた そのやさしい目を

私は見ていた あなたの瞳に映る景色を
いつも いつも

私は知っていた あなたを






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今の私が あなたと会った最初の時に
私にはそれがわかった、一瞬の光のように


でも
あなたは私を知らなかった

私が誰だか、覚えていなかった

だから

私は黙っていた


あなたに尋ねる代わりに
自分に問うた

疑い、泣きながら
問い続けた



あなたはだれ
ほんとうにあのひとなの

あなたはだれ
本当に私の いとしい半身なの

もしそうならなぜ
覚えているのが わたしだけなの

信じない、こんなひどいこと
信じられない






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けれど いつも
答えは同じ

そう

この世で会う前から、
私はあなたを知っている

私はそれが本当だと知っている
私の頭が否定しても 私の奥底は知っている


たとえあなたが 私を思い出せなくても
私をまた 忘れることがあっても

それなら


いいわ 大丈夫
私がこの先も あなたを覚えている





ねえ 私はいつ

この秘密を
あなたに言うのかしら


今 目の前にいるあなたは

降り注ぐ光が 全て自分のものであるかのように
その命いっぱいに愉しんで立ち

瞳に青く輝く空を映して
やわらかに笑う



私がいつも愛していた
あの微笑で

 



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